●女将のエッセイ/遠いよ月夜
どこに行けば君に会えるということがない風の昼橋が眩しい
『日輪』は彼女の第一歌集で、二十代の時の歌だ。学生時代の物腰やわらかな相聞歌がとても魅力的だ。
果たすことができない思い、一歩引いて彼を見ている、おとなしく、けなげな青春そのものだ。当てのない彼との出会いがすごく遠く感じられる。つなげる気配の橋が眩しく感じられるのだ。遠くから眺めているのか、何かアクションを起こせばよいのにと思ってしまう。
ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて
これも『日輪』に収録されている歌だ。遠い月夜が二人の長い距離を象徴しているようだ。憧れの、遥か彼方の、切ない思いの存在として月がある。
そして下敷きの硬さがどうしようもない自分の不器用さを表している。なかなか思い通りにはいかないもどかしさ、でもじっと見ているしか彼女にはできないのだ。「関係は日光や月光を溜めるうちふいに壊れるのかもしれぬ」という意味深の歌もある。頑張れって背中を押したくなるほど、つつましやかで、可憐なのだ。